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SACRAブログ

悩ましい問題:出生前診断(出生前の胎児の染色体検査)

2006.05.11役に立つ?情報

95451560.jpg晩婚化の影響もあり、最近は35歳以上で妊娠・分娩は決して珍しいことではありません。特に初産で35歳以上の方は高齢初産として慎重に管理することになりますが、経産婦さんでも、加齢に伴って妊娠・分娩のリスク(危険)はある程度増加します。

加齢とともに増加する危険としては、妊娠中毒症(妊娠高血圧腎症)発生率の増加、帝王切開率の上昇、分娩時出血量の増加などが挙げられますが、これらの母体合併症は適切な管理(医学的管理だけでなく、ご自身の体重管理や生活態度の管理を含む)によりある程度防ぐことが可能です。しかし、卵細胞の加齢による胎児の異常、具体的にはダウン症などの染色体異常は、年齢とともに徐々に上昇していきます。これは母親の卵細胞が46本の染色体(1個1個の細胞に含まれる遺伝情報の設計図)から、父親の精子由来の23本の染色体と合わさって46本になるために、半数の23本に減数分裂する際に生じたトラブルを原因とするものです。生じたトラブルが高度なら受精・着床に至らなかったり、妊娠初期に流産になると考えられますが、ダウン症のように21番目の染色体が1本多いものの胚の発生には大きな問題がない場合には、そのまま発生が続いて胎児となって行きます。ただしその発症率は、ダウン症を例にとれば35歳で1 / 270(0.3%)、40歳で 1 / 100(1%)と、20歳の1 / 1000(0.1%)に比べれば高いものの、決して高い数字ではありません。

この胎児の染色体異常については、技術的には出生前診断が可能です。これは羊水検査といって胎児のまわりの羊水を針を用いて採取し、そこに含まれる胎児細胞の染色体を分析する方法です。ただしこの検査には流産の危険があります。一般的に流産の可能性は0.3%程度とされますので、上述のダウン症の発生頻度を考えると、少なくとも35歳未満の方には流産の危険の方が大きいため行うべきではないということになります。
羊水検査以外の出生前検査としては、母体の血液検査により胎児の染色体異常を含めた異常を推定する方法(トリプルマーカー検査)がありますが、正確性が低いためかえって臨床現場に混乱を招いた歴史があり、現在はあまり行われていません。
何れにしてもこれらの検査は、胎児の選別につながりかねないという倫理的に大きな問題を含んでいます。また、赤ちゃんの異常は染色体異常を伴わないものも多いため、出生前検査の結果が正常でも、赤ちゃんが100%正常であるとは言い切れないという問題もあります。

いっそこのような検査が無ければとも思いますが、やはり35歳以上の妊婦さんは、出生前検査を受けるにしろ受けられないにしろ、その意味を十分理解された上で主体的に判断されることが望ましいと考えています。

SACRAでは、以前にこのブログに記しましたように超音波により胎児の形態的な異常の有無について詳細に評価しています(http://blog.livedoor.jp/sacra_lc/archives/50193218.html)。しかし上述の胎児染色体の出生前検査は行っていません。ただし、35歳以上の方には出生前診断について説明して、御希望なら施行可能な施設にセカンドオピニオンを目的として紹介することは行っています。

今日はすこし難しい問題でした。皆さんもすこし疲れられたかもしれません、お疲れさまでした。でももう少しだけお付き合いください。

昨年私が大学を退職する前に、ある病院で46歳で妊娠された患者様が来られました。今日のブログのようなお話をして、迷われた末に、「せっかく授かった命だ」ということで、私が慎重に超音波を行って妊娠を継続することを決意されました。幸い赤ちゃんに全く異常はなく、47歳で元気な赤ちゃんを出産されました。
私が管理させていただいた妊婦さんの中で最高齢でしたが、初診で来られたときより、分娩後に産褥検診に来られたときのほうがお若く感じられたのが印象的でした。

子供の安全を願う気持ちはどの親も同じだと思います。残念ながらここ数十年で格段の進歩を遂げた現在医学もまだ、100%の安全性を保障するものではありません。また昔から「案ずるより産むが安し」ということわざもあります。
難しい問題ではありますが、少なくともお腹の中の赤ちゃんのためにお二人が悩んであげることは、これから生まれてくる赤ちゃんとの絆を深くするものであると信じます。

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