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SACRAブログ

A rolling stone gathers no moss ―帝王切開術後に動け動けと言うのは患者さんが憎いからではありません

2006.08.17役に立つ?情報

3fdaffba.JPGSACRAで帝王切開を行った場合の入院期間は、帝王切開当日を入れて8日間です。もちろん母体の回復状況により、数日間の入院延長が必要なこともありますが、ほとんどの方は予定通りに退院されています。
これは手術翌日の午前中に尿道カテーテルを抜いて室内トイレまで歩いていただき、それ以後もどんどん体を動かしていただくことによって可能になります。私と橋本先生で行うSACRAの帝王切開が手術時間30分程度で、腰椎麻酔も最も細い針を用いて行うため術後の安静期間が短くて済むためこのような早期の離床が可能なのですが、何よりも患者さん本人のご努力によるところが大きいです。

以前のブログの「お産の安全性」のところに記しましたように、分娩にはなお一定の危険が付きまといます。分娩時の大量出血は過去も現在もその危険の最たるものですが、最近注目されているのが逆に血液が固まりすぎてしまう状態です。これはエコノミークラス症候群の名前で一般に知られていますが、その本態は過度の安静などにより骨盤内や下肢の静脈内で血液が固まってしまって(深部静脈血栓症)、安静を解除した時にその血の塊(血栓)が血流に乗って飛んで肺動脈を閉塞する状態(肺血栓塞栓症)です。症状は飛んだ血栓の大きさと肺動脈の閉塞の程度に左右されますが、運悪く大きな血栓が飛んで肺動脈を起始部で塞いでしまった場合には、大学病院などの高度医療機関で発症した場合でも救命のチャンスは多くはありません。
妊娠中ならびに分娩直後は、母体の血液凝固能(血が固まる力)が出血に備えて高まっていることや、子宮の圧迫により下肢の静脈の流れが滞りやすいことから血栓が生じやすく、手術による組織のダメージに引き続いて術後の安静を強いられる帝王切開後は特に深部静脈血栓症の危険が増すと考えられています。

私は大学時代から日本肺塞栓研究会に参加してその分野の臨床研究にも携わってきました。SACRAではその知見を生かして、肺血栓塞栓症と深部静脈血栓症の予防対策に力を入れています。予定帝王切開の場合は、手術当日まで通常の生活をしてしっかり体を動かしておいてもらいます。入院後は、術前から十分な輸液を行って血液が濃くなって凝固能が亢進するのを防ぎ、下肢には静脈の拡張を防ぐ弾性ストッキングを着用していただきます。それに加えて、多くの症例では手術中から離床まで空気圧を利用した下肢静脈ポンピング装置を装着します。そして何よりも有効なのが、麻酔が醒めたら出来るだけご自身で足を動かして、早期に離床していただくことなのです。

英語のことわざに“A rolling stone gathers no moss(転石苔を生ぜず)”があります。元々はmoss(苔)を良いものとして「石の上にも3年」に近い意味のことわざですが、転じてmossを悪いものと捉え、常に動き続けることを奨励し、新しいことへのチャレンジを促す意味にも使われます。

人の体は川の中で転がる石のように、常に動き続けるほうが自然なのです
SACRAもおかげさまで開院後10ヶ月となり、誕生した赤ちゃんも150人を超えました。

今後もさらに安全で快適なお産のため、更なる高みを目指して転がり続けていきたいと考えています。

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